ハチミツの基礎知識

はちみつの歴史

人類は数千年にわたり、ハチミツを利用してきました。スペインにある八千年前の壁画洞窟には断崖でハチミツを集める人々の姿が描かれています。古代インドやエジプトなどでは、ハチミツは神々への供物として宗教的な儀式で使用されていましたし、中世ヨーロッパにおいては、甘味料、防腐剤、薬、貨幣、税金として利用されました。日本において、奈良時代の書物である日本書紀には養蜂の失敗した記録が見られ、また平安時代には地方から朝廷への献上品としての記録が残っています。江戸時代には、諸藩で養蜂の産業化を推進していました。明治初めに商業用として生産性の高いセイヨウミツバチが導入されたことで、西洋の養蜂技術が全国に拡大しました。

 

はちみつの成分

ハチミツは約80%の糖分と20%の水分、微量のビタミン・ミネラル成分で構成されています。糖分は果糖とブドウ糖、その他20種類以上のオリゴ糖とショ糖です。主成分である果糖とブドウ糖は単糖類であるため、体内に吸収されやすく、生物のエネルギー源として利用しやすい食材です。また、ハチミツにはいくつかの酵素が含まれており、ハチミツの効能に影響があります。

はちみつの殺菌効果

ハチミツには殺菌・防腐・抗生作用があり、古くから防腐剤として使われてきました。ミツバチが分泌する酵素がハチミツ中のブドウ糖と反応し、殺菌作用のある過酸化水素を生成します。また、ハチミツが持つ吸湿性が周囲のバクテリアそのものの水分を吸収し、死滅させる働きがあるのです。

 

ハチミツの規格

ハチミツ規格には国際食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が合同で作成した国際的な食品規格であるCODEX規格と「一般社団法人日本養蜂協会」が国内規格として定めた「はちみつの品質規格」があります。国内では後者が一般的規格となっているようです。

1.国際規格(CODEX規格)のはちみつの定義

CODEX規格ではハチミツを以下の様に定義しています。

植物の花蜜、植物の生組織上からの分泌物、または植物の生組織上で植物の汁液を吸う昆虫が排出する物質からミツバチがつくりだす天然の甘味物質であって、ミツバチが集め、ミツバチが持つ特殊な物質による化合で変化させ、貯蔵し、脱水し、巣の中で熟成のためにおいておかれたものである。」

そして、不可欠な要素として下記を挙げています。

  • 食品成分(食品添加物を含む)を一切加えてははならない。
  • はちみつ以外のものを加えてはならない。
  • 生産や充填の過程で、味・香りに悪影響が無いようにし、異物が混入しないように気をつけなければならない。
  • 発酵が始まっていてはならない。
  • 混入した異物を取り除く場合を除き、花粉やはちみつ固有の成分を取り除いてはならない。

一般的に消費者が想像する純粋なはちみつのイメージは国際規格に該当するといっても良いでしょう。

2.国内のはちみつの定義

国内標準規格である「はちみつの品質規格」ではハチミツを以下の様に定義しています。

「この規約において「はちみつ類」とは、”はちみつ”、”精製はちみつ”、”加糖はちみつ”、”巣はちみつ”及び”巣はちみつ入りはちみつ”をいう。」

  1. この規約において”はちみつ”とは、ミツバチが植物の花蜜を採集し、巣房に貯え熟成した天然の甘味物質であって、別表に定める性状を有し、別表に定める組成基準に適合したものをいう
  2. この規約において”精製はちみつ”とは、はちみつから臭い、色等を取り除いたものであって、別表に定める組成基準に適合したものをいう。
  3. この規約において”加糖はちみつ”とは、はちみつに異性化液糖その他の糖類を加えたものであって、はちみつの含有量が重量百分比で60パーセント以上のものをいう。
  4. この規約において”巣はちみつ”とは、新しく作られて幼虫のいない巣房にみつばちによって貯えられたはちみつで、巣全体又は一部を封入したまま販売されるものをいう。
  5. この規約において”巣はちみつ入りはちみつ”とは、はちみつに巣はちみつを加えたものをいう
  6. (1)の”はちみつ”には、精製はちみつ又はローヤルゼリー、花粉、香料、果汁若しくはビタミンを加えたものを含むものとする。

 上記のように、甘味料として使われる精製はちみつや、水飴や添加物などで薄められた加糖はちみつ、温度管理されていない加熱処理済のはちみつなども「はちみつ類」として、国内では多く流通しています。一方、国産の純粋生ハチミツは「国産天然はちみつ」として流通し、「はちみつ類」との使い分けがされていますが、多くの消費者が「はちみつ類」をはちみつとして購入しているのが現状のようです。

国内ハチミツの流通量

国内で流通している家庭用ハチミツの90%は輸入ハチミツであり、10%が国内生産ハチミツである。輸入ハチミツ全体の70%が中国産、10%がアルゼンチン産、7%がカナダ産となっている。国産ハチミツのほぼ全てが家庭用向けハチミツ(財務省統計より)。おそらく、これらの統計はほぼ全てが商業養蜂としてのセイヨウミツバチのハチミツと考えられます。

 

 ハチミツは発酵する生もの

皆さんがいつも食べているハチミツですが、生のハチミツは発酵するって知ってますか?

蜂の巣から採ったばかりのハチミツには酵母菌やその他自然界のさまざまな微生物が含まれています。通常、そのような微生物がハチミツに含まれているハチミツは発酵してしまいます。つまり、採取したばかりの生ハチミツは発酵食品なのです。瓶の中ではハチミツに含まれる糖質が微生物によって分解され、アルコール成分に分解されます。生はちみつの中では常に微生物が活動し、特に微生物が活動しやすい温度帯では発酵が多いに進み、密閉された瓶の中が高圧になってしまうことがあります。つまり、それはハチミツが生きているという証拠なのです。

しかし、一般的には生ハチミツは市場では流通しません。なぜなら、そのような不安定な商品を大きな市場で取り扱うことは生産者や流通業者にとっては大きなリスクになるからです。例えば、搬送中にハチミツが発酵して瓶の中からハチミツが漏れ出したり、客先で瓶の中の圧が高圧になりお客さんが瓶を開封した際に爆発したなんてことがあると、大変問題になります。だから、市場で流通しているハチミツは一度加熱(60℃以上)して、ハチミツの中の微生物を殺し、発酵を止めるのです。勿論、その他の雑菌などを死滅させることによって、食中毒など発生を抑える効果もあります。しかし、加熱処理することによって、本来、はちみつに含まれるミネラルや殺菌効果の期待できる酵素成分なども分解されてしまうのです。

生はちみつと加熱処理されたハチミツがどちらが良いというわけでなく、それぞれの特徴を知った上でハチミツを選んで欲しいと思っています。例えば、自分は生ハチミツの特徴を理解しているし、生はちみつに含まれる栄養素や酵素の働きを期待しているので、自分用に生はちみつを選ぶという選択肢は良いと思います。一方、ハチミツについて理解していない方に生はちみつをプレゼントするというのはちょっと危険な感じがしますので、そのような方には状態が安定している(発酵しない)加熱済みハチミツを選択した方が良いと思います。

以上のような事から、状況に合わせて生はちみつか、加熱済みハチミツかを選択する事をお薦めします。

※写真の左は結晶化した生はちみつ、右は加熱処理したハチミツ